観光地として人気のインドネシアのバリ島には舞踏、劇、音楽など多くの伝統芸能が継承されています。
今回ご紹介するケチャもその1つです。
バリ島観光の目玉の1つともいえるケチャとはどのようなものなのでしょうか。
目次
1.観光客を引きつける、インドネシア伝統のケチャとは
ケチャとはインドネシア・バリ島の伝統芸能の1つで、楽器を使わない男声合唱です。
インドの叙事詩「ラーマーヤナ」を題材にした舞踏劇のBGMとして披露されることが多く、
この男声合唱と舞踏劇が上演されます。合唱と劇をまとめて「ケチャ」ということもあります。
日本では「ケチャ」と呼ばれますが、現地ではKを発音しないため「チャ」と呼ばれています。
いくつかのパートが複雑に絡み合う迫力、身振りにリズムを刻む擬音や呪文のような言葉が相まって、一種独特の雰囲気が醸し出されます。
2.ケチャとインドネシアのルーツや歴史について
「伝統芸能」という扱いを受けているケチャですが、実はその歴史はさほど古いものではありません。
今のような形になったのは1930年代のことです。
ケチャの原型は魔除けの踊りに使われる男声合唱として古来からありましたが、時代を経るに従い廃れていってしまいます。
それを憂えたドイツ人の芸術家が「ラーマーヤナ」の物語と結び付け、大衆的に再構成したのが現在のケチャです。
ドラマチックなケチャダンス。ラーマーヤナ叙事詩から引用したエピソード
ドラマチックなバリ島を訪れたら、この島で最も魅力的な伝統芸能を見ずして帰れないでしょう。バロンダンス、ジャンゲールダンスに加え、もうひとつ見逃せないのが、ダンスと音楽のドラマで構成されたバリの芸術的傑作、ケチャダンスです。
海に面した崖の上で、夕暮れ時に野外で行われるこのドラマは、その日の自然光ですべてが決まります。夕暮れから始まり、竹の松明が揺れるだけの暗闇の中で物語は進行します。
この踊りの特徴は、人工的な背景や楽器を一切使用しません。中心には松明が置かれ、その周りに50〜60人の素っ裸でバリのサロンを着た男たちがあぐらをかいて座っています。
ケチャは、他のバリ伝統芸能につきもののガムラン・オーケストラの代わりに、猿の軍団を表す男たちの詠唱「Cak!Cak!」が流れるだけです。
「Cak! Cak!Cak!」「Keh-Chak」とポリリズムを刻みながら、演奏のほぼ全編に渡って唱え続けます。
この素晴らしい人声オーケストラを率いるのは、高音・低音の指示を担当するソリストと、ナレーターの役割を担う人。その結果、しばらくすると、劇のアクションを演じるための劇的な音の壁となります。
この公演は、叙事詩「ラーマーヤナサーガ」の短縮版で、ダンサーはラーマ、シンタ(シーター)、ラクシュマナ、ラーワナ(ラーヴァナ)、ハヌマン、スグリワ(スグリヴァ)、その他のキャラクターに扮しています。
ストーリーは、ラーマ王子が妻のシンタと弟のラクシュマナとともに森に迷い込むところから始まります。そこで、巨人ラーワナがシンタを誘拐し、自分の宮殿に監禁する。
ラーマは助けを求めて、友人の猿の王国の王スグリワを見つけるためにラクシュマナを送ります。スグリワは司令官の白猿ハノマンを送り込み、ラーワナの宮殿にいるシンタの様子を見に行かせます。
ハノマンがラーワナ軍に捕まり、生きたまま焼かれるために火の輪の中に入れられるという劇的なシーンが描かれており、白猿の戦士は焼け死ぬどころか、無傷のまま脱走し、代わりにラーワナの宮殿を燃やしてしまうのです。
こうして両軍の戦いが始まりました。ラーワナ(Rahwana)とその軍隊は、まずラーマ(Rama)を制圧することに成功します。
しかし、スグリワとハノマンが他の猿の軍隊と一緒にラーマを助けに来て、邪悪な王を最後に打ち負かしました。
ケチャダンスの起源は、バリ島に古くから伝わるサンヒャンと呼ばれる儀式で、踊り手がトランス状態になることで悪霊を退散させることを目的としていると言われています。
1930年、バリ舞踊家ワヤン・リンバックがドイツ人画家ヴァルター・シュピースと共同で、叙事詩「ラーマーヤナ」を取り入れたサンヒャン劇を創作したのが始まりです。これをきっかけに世界各地で公演が行われるようになり、現在に至っています。
ケチャックダンスはバリ島のあちこちで定期的に上演されています。
3.インドネシアのケチャの形態につてい
3-1.インドネシアケチャの形態「外観」
上半身裸で腰布を巻いた大勢の男性が何重もの円陣隊形にあぐらを組んで座ります。
この腰布は黒と白の格子模様で、善と悪が拮抗していることを表したものです。
登場人物はこの円陣の周りや内側で演劇を繰り広げます。上映されるのは日没の頃で、かがり火が焚かれたりして雰囲気を盛り上げます。
3-2.インドネシアケチャの形態「ストーリー」
インドの叙事詩「ラーマーヤナ」の舞踏劇は、ラーマ王が味方の猿軍と共に、妻をさらった悪鬼ラバナの軍勢と戦うというものです。
登場人物たちはきらびやかな民族衣装に身を包んでいます。
女性のしなやかな踊りと男性の力強い動き、猿のコミカルな動きなど、合唱だけでなく劇自体もとても魅力的です。
この物語に合わせてケチャの音楽は強弱、緩急が複雑に変化し、物語を盛り上げます。
合唱をしている男性たちはラーマ軍の猿軍団という設定でもあります。
3-3.インドネシアケチャの形態「音楽構成」
チャ、チュなどの音が目立つケチャの合唱は一見規則性のないでたらめな音楽に聞こえますが、実はかなり複雑で鍛錬が必要なものです。
全体のリズムをリードする役、旋律を担当する役の他に4つのパートがあり、それぞれに「4拍子の中に〇回チャを入れる」というような役割があります。
「チャ」という掛け声のような音が混ざり合い、全体として16ビートのリズムのように聞こえます。
合唱をする男性たちは、音楽だけでなく身振りや手ぶりも入れるのですが、
腹筋を激しく使うケチャの合唱を数十分の上映時間続けると過呼吸になることもあるといい、
それが一種のトランス状態を作り、呪術的な雰囲気を漂わすことにもなっています。
4.インドネシア旅行の際にケチャを鑑賞できる場所
ケチャは特にバリ島南部を中心に上演されています。
上映場所自体が一見の価値のあるところもあります。有名なスポットをいくつかご紹介します。
4-1.インドネシアでケチャ鑑賞「ウルワツ寺院」
どのガイドブックにも載っているのがウルワツ寺院で、海をバックにした断崖絶壁にあるというロケーションが人気です。
4-2.インドネシアでケチャ鑑賞「バトゥブラン」
バトゥブランは民俗芸能で有名な村で、ここではケチャとファイヤーダンスの両方が鑑賞できます。
4-3.インドネシアでケチャ鑑賞「タナロット寺院」
タナロット寺院は海の中の岩に建てられた寺院です。
ケチャの合唱団の人数は多くありませんが、バリ島一と言われる夕日の美しさで有名なスポットです。
4-4.インドネシアでケチャ鑑賞「ウブド」
芸術の村ウブドにはケチャのグループも多く、王宮や寺院でケチャが見られます。
まとめ
ケチャは日本の音楽の教科書でも扱われることがあるくらい有名な芸能です。
バリ島に行ったら是非鑑賞したいものですが、当日券しかなかったり、会場までの交通機関が制限されていたりと、不便なことがらも多くあります。
事前準備を入念にして、楽しんで欲しいと思います。